今年も確定申告の季節がやって来たのである。ご主人は、最初に国税庁の配当フォームに配当額、所得税の源泉徴収額、地方税の源泉徴収税額のデータを貼り付け、証券会社からの支払通知書と1件1件数字を目視で確認したのである。そして、国税庁HPの確定申告書作成コーナーで、配当フォームのデータを読み込み、その他の項目は書類を見ながら一気に所得税の確定申告書を作成したのである。所得税の還付金額は39万円と分かったのであるが、ご主人は少々複雑な顔をしているのである。というのも、2021年12月24日に閣議決定された「令和4年度税制改正の大綱」の76ページに、ご主人を困惑させる内容が明記されたからなのである。
ご主人を困惑させているのは、個人住民税において、「特定配当等及び特定株式等譲渡所得金額に係る所得の課税方式を所得税と一致させることとする。」という一文なのである。「特定配当等」とは源泉徴収されている上場株式の配当等、「特定株式等譲渡所得金額」とは源泉徴収有りの特定口座における株式等譲渡所得金額のことである。現在、所得税においては総合課税方式、個人住民税では申告不要(源泉徴収のみ)のように、所得税と個人住民税で異なる課税方式を選択できるのである。
異なる課税方式のメリットは、所得税においては課税所得330万円未満の場合限界所得税率は10%(話が複雑になるので復興支援特別所得税は省略、以下同じ。)で、源泉徴収税率15%よりもお得なので総合課税方式にするメリットがあるのである。課税所得695万円未満(限界所得税率20%)であっても、日本株は配当控除(配当額の10%が税額から控除される。リートには配当控除は無い。)があるので、総合課税方式が有利となるのである。
一方、個人住民税の場合、総合課税方式にすると、基礎控除、配偶者控除、扶養控除が所得税の場合よりもそれぞれ5万円少ない上に、税率が大雑把に言えば7.2%(地方住民税率10%-日本株の配当控除2.8%)なので、源泉徴収5%が有利となり、個人住民税では、特定配当等及び特定株式等譲渡所得金額を申告不要(源泉徴収のみ)にするメリットがあるのである。ただし,控除後の課税所得が少ない場合には源泉徴収よりも総合課税方式が有利となるのである。
ここまでは、企業の健康保険に加入している人に当てはまる話であるが、国民健康保険に加入している人にとっては、総合課税方式で個人住民税を申告すると、国民健康保険料の算定において、所得からの控除が43万円のみのうえ、所得割が12%程度(地方自治体により多少異なる)増加するので非常に不利になるのである。つまり、所得税と個人住民税の課税方式を一致させるということは、国民健康保険に加入している人とって所得の少ない人以外は、源泉徴収一択しかないのである。
閣議決定された「令和4年度税制改正の大綱」は、税制改正法案として国会で成立することはほぼ間違いないので、2025年度(令和6年度)の住民税と国民健康保険(2024年の所得)から実施されることとなる。